実から種子を取り出し、煎って粉に挽いて、その後煎じて飲む。コーヒーは複雑な工程ののちに、初めて真価をあらわす不思議な飲物です。 |
その魅力の源泉やおいしく味わうための工夫などを中心に科学的に考えてみましょう。 |
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◆◆コーヒーの魅力◆◆ |
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1.カフェインの魅力 |
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コーヒーの魅力は、味、香りに加えて、興奮作用を持つ成分が含まれるところにあるものと思われます。 |
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中でもカフェインの魅力は大きく、純粋のカフェインが薬として便われているのをみても、その持っている力を推察することができます。
歴史的にみてもわかるように、人は興奮や陶酔をもたらすものに大きな魅力を感じてきました。 |
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興奮、陶酔をもたらすものにアルコールや煙草がありますが、コーヒーもカフェインの興奮作用が、こたえられない魅力を持つものとして、人々に受け入れられてきたことが推定できます。 |
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カフェインは興奮をもたらすほかに、それに付随して各種の効用を持っています。 |
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例えば、喘息発作のように、交感神経が興奮すると治まってくる疾患では、コーヒーのカフェインは大きな力を持っているし、頭痛などを鎮める力もあります。 |
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これは、血の循環がよくなることによって効果をもたらすのです。 |
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反対に人によってはカフェインが沈静的に働くこともあり、コーヒーを飲むとよく眠れるという場合もあります。 |
また、食後にコーヒーを飲むと消化液の分泌が促進され、胃にもたれにくくなるという効用などはよく経験するところです。 |
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2.苦みと香りの魅力 |
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コーヒーの魅力には、特有の苦みもあります。苦みは、タンニンとその化合物、糖分が焙煎によりカラメルに変わったもので、カフェインも苦みにプラスしています。 |
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これらの苦みは、総合的にコーヒーの魅力的な苦みとして存在しています。また、香りもコーヒー独特のものですが、これも焙煎のときにできたカラメルとピラジンなどによるもので、これらがコーヒーに魅力ある香りを提供しているのです。 |
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3.カフェインの作用 |
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コーヒーの成分の中で最も人体に影響を与えるのがカフェインです。薬品としてのカフエインは、純粋なものについては劇薬の扱いを受けています。 |
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薬品としてカフェインを多く摂取し過ぎた場合、心悸高進、不整脈、不快などの作用を起こすからです。これは、薬品の場合であり、コーヒーからのカフェインは、2~3杯程度では全く問題はありません。逆に適度なカフェイン量であれば、薬効としてプラスに働きます。 |
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・タンニン |
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茶の渋味成分として良く知られています。渋味のほか、収れん作用もあります。具体的なタンニンの作用は、口中をさっぱりさせることがあげられます。 |
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食欲増進の効果をもつブラウンフレーバーの一種です。糖類のカラメル化は、砂糖や糖類が180℃位で加熱されるとおこります。200℃以上になると炭化します。 |
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◆◆コーヒーの香り◆◆ |
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1.香りの正体 |
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コーヒーには独特の魅力ある香りがあります。香りには2種類あり、ひとつは、コーヒーをたてているときに漂ってくるもの、もうひとつは、コーヒーを飲んだときに口の中に広がるものです。 |
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いずれの香りもコーヒーを焙煎することで出てくるもので、生の豆には含まれていません。 |
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コーヒーの香り成分は、500種以上あり、これらは生豆を焙煎する過程で生じるものです。コーヒーの香りは焙煎の温度や時間でかなり大きな差異が出てきます。 |
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これは生豆に含まれている物質が、加熱の温度や時間で異なる物質に変化するためと考えられています。 |
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2.カラメルの香り |
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コーヒーの主たる香りはカラメルです。これはコーヒーの糖分が焙煎時の加熱により変化したものです。 |
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砂糖のシロップを煮詰めてカラメルを作ったことのある人はわかると思いますが、加熱を続けるとだんだん褐色が強くなり、その変化に応じて、香りも変化していきます。 |
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一言でカラメルと言っても香りが違うのは、カラメルには多様な種類があり、少しずつ香りが異なるためなのです。 |
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コーヒーの香りは焙煎の加減によるところが大きいです。焙煎の手加減ひとつで、魅力ある香りが出るか、少し厭味のある臭いが出るかの相違となります。 |
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このほかに、乾燥した豆類を加熱すると出てくる、やはり良い香りのピラジンといったものが、コーヒーの魅力ある香りとなっています。 |
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いずれも、コーヒーを淹れたときと、口に入れたときに感じるものでありますが、口に入れたときの香りは、コーヒーの味も左右します。
なぜなら、香りは味覚の感じ方にも大きく影響を与えるからです。 |
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なお、香りの成分は、揮発性のものが多いので、焙煎後はできるだけ早く使う方が、香り高いコーヒーが楽しめます。 |
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3.乾燥させる効果 |
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コーヒー豆は、よく乾燥している状態と水分が少しある状態とでは、加熱したときの化学反応に違いが生じます。 |
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コーヒー豆に水分が多いと、最初に煮たような状態となってしまい、その段階で豆に変化がおこってしまいます。
その結果、焙煎したときには良い味や香りが出てこなくなります。 |
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香ばしい匂いをもたらすピラジンの生成は、良く乾燥していないとおこりません。
水分がある場合はピラジンではなく、メラノイジンといって醤油を焦がしたような臭いが出てくる可能性があります。 |
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また、コーヒー豆は乾燥していても酵素類は健在です。そして、酵素の働きで、豆の成分に徐々に変化が生じています。
コーヒー豆には脂肪も多く含まれていますが、これの組成が安定してくることで、焙煎したときの香りが良いものになると考えられています。 |
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◆◆焙煎での風味の変化 ◆◆ |
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焙煎の深い、浅いで味・香りに変化が出る理由として、まず、コーヒー豆の中には糖分がかなり多く含まれていることがあげられます。 |
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コーヒー豆の糖分が、焙煎でほとんどなくなるのはカラメルに変化するためです。 |
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しかし、浅い焙煎だと少し糖分が残っています。
カラメルは、高い温度で糖分を加熱するほど、苦みが強く、色の濃いものができます。 |
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また、糖分がいくらか残っていれば、それだけカラメルの風味は少ないし、甘みもコーヒーに出ます。色が薄く、苦みもあまり強くないものができます。 |
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コーヒー豆には、かなり脂肪も多く、これも焙煎の温度、時間に関連して、香りに影響を与えます。 |
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強く加熱するほど、刺激性のある匂い成分が出やすくなります。これは脂肪が熱で酸化し、さらに分解して蒸発するからです。 |
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強火で油炒めしたときのことを考えるとそれがわかります。 |
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・ピラジン |
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ゴマを煎ったときに出る芳ばしい香りもピラジンです。 |
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ピラジンは、水分の少ない状態で、タンパグ質と糖分とを180℃位に加熱すると生成されます。 |
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・メラノイジン |
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カラメルとともに、ブラウンフレーパーといわれています。 |
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メラノイジンは、アミノ酸、またはタンパク質が糖類と加熱されたときに出る香りで、蒲焼きやご飯のお焦げなどの香りもその一種です。 |
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ただし、醤油を焦がしたような香りは、コーヒーの香ばしい香りにはなじみません。 |
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・保存中の変化 |
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焙煎すると、生豆に含まれている脂肪の酸化防止成分が破壊されて日が経つと共に脂肪が酸化し風味が低下します。 |
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また、挽いた後は、空気に触れる面積が更に大きくなるので、脂肪の酸化はもっと進み、風味は急速に低下します |
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◆◆抽出の意味◆◆ |
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1.淹れ方での味の違い |
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コーヒーの抽出にはいろいろな方法がありますが、大きな違いはコーヒーの淹れ方で水分がコーヒー豆に接触する状態が違うということです。 |
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サイフォンのようにコーヒーを湯で煮れば、多量の各種成分が抽出されることになるし、エスプレッソのように蒸気だと気体の水が液体の水に戻るときの作用での抽出ということになります。 |
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また、ドリップの場合でも、一回で新しい湯が通るのと、その湯が作用している時間、抽出されたコーヒーが繰り返しコーヒー豆の成分を抽出する場合など、どれも豆に水分が接触する状態が大幅に異なっています。 |
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当然抽出される成分にも差異ができるので、風味にも違いの出るのは当然のことです。 |
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2.蒸らしの効果 |
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コーヒーを風味よくいれるには、豆の成分の中で風味に必要なものが十分に湯に抽出される必要があります。そうでないと味のバランスが崩れ、良い味のコーヒーを楽しめません。 |
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コーヒー豆は、乾燥後、さらに焙煎して水分は少なくなっています。
このような状態から、バランスよく成分を抽出するためには、はじめに必要なすべての成分が抽出できるような状態になっている必要があります。 |
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物質には、すぐに溶け出るものと、そうでないものがあります。
すぐに溶け出るものだけでコーヒーの味が形成されるのであれば良いのですが、コーヒーの味には溶け出にくい成分も必要です。 |
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そこで、溶け出しにくいものが、溶けやすいものと共に抽出されるような条件を作らなければなりません。
そのために行なうのが蒸らし作業です。 |
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◆◆コーヒーの飲み方◆◆ |
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1.ミルク・砂糖の効果 |
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コーヒーは、ミルクや砂糖を入れるよりもストレートで味わう方が”通”な飲み方と思う人も多いと思いますが、これは個々人の嗜好の問題です。 |
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しかし、砂糖は多く入れ過ぎると、甘みによって味覚が感知されにくくなり、徴妙な苦みを味わうことができなくなります。
苦みの嫌いな人が砂糖を多く人れがちなのは、理に適っているわけです。 |
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他に、ミルク、砂糖ともに酸味を和らげる働きがあります。
また、ミルクを入れて飲むとコーヒーの刺激を和らげ、胃に優しいと思っている方がいますが、これは実はあまり効果はなく、心埋的なもののようです。 |
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コーヒーの胃への影響ですが、空腹時に飲むと胃液の分泌を促し、人によっては胃に負担をかけますが、健康な人にはあまり影響がありません。 |
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また、食後に飲めば消化をよくします。 |
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2.温度と味の関係 |
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コーヒーは、飲む時の温度も味に影響を与えています。 |
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冷めたコーヒーは苦みや酸味を強く感じ、香りもあまりたちません。 |
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ホットコーヒーの場合、60℃位までがおいしい温度といわれたりもします。 |
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なお、コーヒーを保温しておくと色が濃くなり風味が低下しますが、これは、タンニンが酸化して更に結合するためです。 |
おいしく味わうにはやはりいれたてが一番です |
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3.コーヒーの嗜好性 |
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コーヒーの飲み方と食べ物との関係を探ると、脂肪摂取量の多い傾向のある地域ほど、ストレートに近い味を好むようです。 |
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これは脂肪のしつこさを苦みでさっぱりさせようとするためです。
脂肪摂取量の少ない傾向の地域では砂糖やクリームをたっぷり入れる傾向があります。 |
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4.温度と味の変化 |
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コーヒーの適温は色々な考えがあり、難しいところですが、一般に苦みは冷めるにしたがって強くなるので、冷めたコーヒーは苦みを強く感じるようになります。 |
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また、体温以下に冷めたものは酸味が強く感じられます。
さらに、香りの成分は気体となることで匂いを感じることができるので、温度が低すぎると香りも薄くなることになります。 |